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彦根について②

 

私は結局恋人を得ることなく高校を卒業した。私の孤独感は誰にも分かち合われることなく、行き場なく私の心に沈殿しつづけた。彦根城下の光景だけが私を癒した。

正確には一度だけ付き合ったことがあった。しかしそれもすぐに終わってしまった。

私は自分の弱さを人に見せないように見せないようにしていた。人は、男子とは、かっこよくて、明るくて、面白くないといけないと思っていた。強くないといけないと思っていた。暗いところは、弱いところは隠さないといけないと思っていた。克服しなければいけないと思っていた。

彼女と話すとき私は緊張していたが、それは私の弱さの一つの形だった。そして私は緊張していることが彼女に知られて臆病な男だと幻滅されるのがとても怖かった。だから緊張していることを必死に隠そうとした。そして緊張してはいけないと思って余計に緊張していた。素直に緊張していると言えばよかったのだが、当時の私にはそう言うことができなかった。人間の弱さとは何だろうか?緊張、恐怖、虚飾、不安、寂しさ、孤独…。いずれにしても私がそれらを誰かにそのまま開き示すことができたのはもっと後のことだ。私は緊張を隠しつづけ、弱さを隠しつづけ、そのうちうまく話せなくなって関係は消滅した。

私は孤独のうちに高校を卒業した。そして彦根を去り京都へ出た。

今では山田詠美の『僕は勉強ができない』について彼女と話した記憶が残るだけだ。

「怒んないでよ、秀美くんたら。皮を剝いても野菜じゃ仕様がないわよ。その内、人の視線を綺麗に受け止めることが出来る時期が、きっと来る。その時に、皮を剝く必要のない自分を知れれば素敵よ」